お父さんは、９歳ぐらいのときに、始めてクジラ肉を食った。戦時中の缶詰が見つかり、古すぎて食えるかどうか解からないけど、みんなで分けたのだ。

　なんだか知らないけど、突然缶詰が２個出現したので、お父さんは興味深深。開けてダメなら食うなと言われたと思う。先に親が試すべきなのに、「食ってみろ」と言われたので、食ってみた。

ラベルはなく、缶の底に文字があったと思う。

　それはすぐだった。一口嚙んだら、「あれーーー！」みるみる唇が腫れあがり、ひん曲がった。お父さんは痛いのと、大きく腫れて変形した唇を鏡で見て泣いた。兄はそれを見て笑った。

　その日以来、５６年、お父さんは鯨肉というものを避けてきた。多分、あの缶詰はすでに金属成分が溶け出していて、金属中毒になったのではないかと思う。

　今は食べてもなんともない。お父さんは鯨肉を４ブロックも冷凍している。ここ２ヶ月はミネラル補充ため頑張って食べたが、いっぱいありすぎると飽きる。

　シオナガス鯨を缶詰めで売っていた。日本が自国領の海でしか捕鯨しなくなっても、他の国から買ってくるのだか、買ってくれと言われるのか知りませんが、外国産のがあるじゃねえか。

　これは捕鯨国、アイスランドからのナガス鯨の肉ですね。

　味は？　普通だなあ。なぜか２８０円と安い。ノルウェー産のひげ鯨は520円。

また唇が腫れたら、死ぬまで、絶対食うことはないだろう。